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BOOK|中川正子写真集「ダレオド」

 

中川正子写真集「ダレオド」

DAREODO Masako Nakagawa

 

この度、写真家・中川正子の待望の新作写真集『ダレオド』を刊行いたします。
『BOOK MARÜTE』が立ち上げた出版レーベル『Pilgrim』による初の写真集です。

2016年11月に、写真集の完成に先駆けて高松で開催した写真展には、全国から連日多くの方がつめかけました。彼女の写真と言葉がもたらす影響力は底知れず、いまを生きる人々に様々な気づきをもたらし、大きな共感を呼んでいます。

 

自身の出産と大震災という体験を経て、目に映る世界を切り取った写真集『新世界』、岡山で暮らすようになって出会ったひとびとの景色を紡いだ『IMMIGRANTS』。

その先に生まれた本作『ダレオド』の中に写されているのは、日々の中にたしかに存在する、さまざまな光です。まばゆい光、おだやかな光、そして、濃い闇の中に、ひっそりと確かに存在する光。

これは、広く混沌とした世界から、中川がみずからの意思で選びとった、小さくも美しい光、そして光に類するものを集めた写真集です。

 

「誰もみていないみたいに、踊って」

あるとき見つけたこの言葉から、中川はひとつのイメージを育ててきました。それは、のびやかに生き生きと踊り、歌い、愛し、生きる人の姿。中川にとって、いつしかこの無心に「踊る」姿は、ある象徴として存在するようになりました。世界で何が起ころうとも、大きな力が押し寄せようとも、それらがつけ入る隙もないほどに、目の前にある確かな光に意識を集めそれを手放さない。そんな生き方の、象徴として。写真集の中には、日々にこぼれる光とともに、踊る人の姿が写し出されています。

写真家の中川が踊るように生きるために選んだ手段は、シャッターを切ることでした。そうして集めた光のひとつひとつは、はかなく微弱かもしれません。しかしそれぞれが集めた光の束はいつか世界を明るく照らして行く、という強い祈りにも似た願い、そして誓いが「ダレオド」という4文字の言葉に集約されています。

「これは、ひとことで言うならわたしの平和活動です。」と中川は言います。
本作は、抗えないと思えるような強大な力への「抵抗」ではなく、中川なりの「宣言」です。

 

今回、これらの繊細な光の表現、そして闇の表情をあますところなく再現することに成功し、深みのある美しい1冊が完成しました。
写真にただよう空気や熱、込められた願いを感じながら、ぜひ1ページずつじっくりとお楽しみいただければ幸いです。

 


 

  STATEMENT

「誰も見ていないみたいに、踊って」

どこかの牧師が書いたそんな言葉を以前、アメリカのスーパーで見かけた。
その一文は心のどこかにすっと、静かに沈み、美しい景色となってずっと、わたしの中に存在しました。夢中で踊る誰かの姿とともに、いつしか、「踊る」という動詞は、わたしにとって、生き生きと生きることの、象徴になりました。

わたしは、ひかりを集めたい。
戦い争い傷つけ合うこと。不安や恐怖や絶望。
それらに抗う代わりに、わたしはひかりを粛々と集めたい。
わたしの、あなたの、彼らの、生きる日々にこぼれる、ひかり。
はかなく、強く、おだやかに、鋭く。
それらを余すところなく拾い、積み上げることは、わたしにとって、強い祈りのようなものです。歌が作れないから、歌の代わりに。踊るみたいに。

拾い集めたひかりの粒はやがて、わたしの手を遠く離れ、それぞれが呼応し合って、明るさを増してゆく。ひかりに包まれたひとびとは、抱き合って許し合い、恐れは消えてゆく。そこは、助け合い、分け合い、愛し合うひとびとの世界。そこからもう、焦点を離さない。そう、決めました。

ね、誰も見てないみたいに、踊って。

“Dance like nobody’s watching.”

I spotted those words, penned by a pastor somewhere, in an American supermarket.
They wormed their way quietly into my heart, forming a beautiful scene that stayed with me. At some point, along with the sight of someone wholly immersed in dancing, for me the verb “to dance” became a symbol of living life to the fullest.

I want to collect light.
Battling, fighting, wounding each other. Uncertainty, fear, disappointment.
I’d rather silently collect light than resist them all.
The light that spills onto the days I, you, they, live.
Ephemerally, powerfully, gently, sharply.
Picking up every example of that light, adding it to the never-ending pile, is for me akin to saying a powerful prayer. Like song, because I can’t write songs. Like dancing.

Those particles of light I’ve scooped up eventually make their way far out of my hands, calling to each other to increase the brightness. People wreathed in light embrace each other, forgive each other, and fear disappears. This is a world of people helping each other, sharing with each other, loving each other. I’ve decided never to shift my focus from that.

So go ahead, dance like nobody’s watching.

 


 

  ABOUT BOOK

2017年4月3日 初版第一刷発行
著者|中川正子
発行|Pilgrim
3,900 JPY

216mm×302mm
64ページ

アートディレクション|佐藤孝好(オギャー)
デザイン|廣瀬豊(オギャー)
プリンティングディレクター|熊倉桂三(山田写真製版所)
印刷・製本|株式会社 山田写真製版所
寄稿|安東嵩史
和文英訳|パメラ・ミキ・アソシエイツ

DAREODO

First edition, first printing  April 3, 2017
Author|Masako Nakagawa
Publisher|Tetsuya Ogasawara
Published by Pilgrim

Art direction|Takayoshi Sato (Ogya)
Design|Yutaka Hirose (Ogya)
Printing direction|Keizo Kumakura (Yamada Photo Process)
Printed and bound by Yamada Photo Process Co., Ltd.
Contributing editor|Takafumi Ando
English translation|Pamela Miki Associates

 


 

  PROFILE

中川正子 (なかがわ・まさこ)

1973年横浜生まれ。1995年、津田塾大学英文学科在学中にCalifornia state university, Haywardに留学。写真と出会う。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、アーティスト写真、書籍など多ジャンルで活動中。
2011年3月に岡山に拠点を移す。現在、東京と岡山を往復する日々。自身の出産と震災後の世界を描いた写真集「新世界」(PLANCTON刊)は全国6カ所で巡回をし好評を得た。最新の写真集として、東日本大震災の後に岡山へ移住した人々の暮らしをモチーフにした物語『IMMIGRANTS』を発表。他に「旅の響き」(宮沢和史氏と共著、 河出書房新社刊)、「通学路」(PLANCTON刊)、2017年4月最新写真集「ダレオド」(Pilgrim刊)。

 


 

  BUY

BOOK MARUTE店頭、もしくはオンラインショップにてご購入いただけます。

 


 

「ダレオド」について、編集者の安東嵩史氏に寄稿いただきました。
  見えない光、それを見ること ー 中川正子『ダレオド』に寄せて

 

 

2017-03-02 | Posted in newsComments Closed