news

見えない光、それを見ること——中川正子『ダレオド』によせて

 

中川正子の新作『ダレオド』は、とても“わかりづらい”。

本作の収録写真を見て最初に感じたのは、全体を通して「過去2作とはまったく違う」ということだ。 一見して象徴的なのは、本人のステイトメントにある「誰も見てないみたいに、踊って」を表象するようなダンサーの姿を収めた一連のカット。本作品集のために、意図して撮られたものだという。

これまで日々撮った写真を後からまとめるというやり方で作品集を作ってきた中川が、今回初めて、「何かを表現するために、撮った」。それは作家としての中川正子が次なる段階へと進もうとしている証左であり、何より、そこに確固とした“伝えるべきこと”があることの表れに他ならない。

 

前2作『新世界』『IMMIGRANTS』に共通して写し出されていたのは、「確かさ」だった。出産や震災を経てこの世界の美しさに改めて開眼した驚きと喜び、そして新しい場所で日々を築いていく人々への敬意や、彼ら自身の意思。中川自身がある意味「これが、これからの、よいものなのだ」という確信のもとに切り取ったものを、善なるものとして提示する。それはとても美しく、明快に、中川自身の現在地を示したものになっていた。

しかし、『ダレオド』に写し出されているものはすべて、ひとつのかたちにとどまるということを知らず、刻々と移ろい、変わっていくものばかり。炎、水、そして木々や都市の風景に至るまで、そのすべてが「動」的であるとでも言おうか。いずれも“途中”の貌をして、その刹那だけ、そのかたちで目の前にある。このままでいいのか、今いるのはどのあたりなのか、“正解”は一つも用意されていない。

一見同じ水を写していても、そこに留まりながら光を湛えていた『IMMIGRNTS』の水と、これからどこかに流れてゆきそうな『ダレオド』の水は違う。そして人もまた、そうだ。

 

善なるものはわかりやすく美しいが、ときに一分の隙もなく正しすぎることがある。

「正しさ」の誘惑は実に甘美なものだ。自分がそちらの側に立っていると思うだけで世界から承認され、保証されたような気分になれる。自分だけでそう感じている分にはいいが、次第に人はおせっかいにも他者をもその正しさの中に押し込め、世界をひとつの形に統合しようとしてしまう。いびつな者はいないか、はみ出し者はいないか、常に目を光らせ、それらを「正常化」しようとする。

なぜなら、そのほうが“わかりやすい”からだ。そして、それは例え善意が根底にあったとしても容易に他者への非寛容につながり得るものだということを、人は忘れる。眩しい光に目がくらみ、そこに照らされないものもあるのだということを、忘れる。

 

己にとっての“わかりやすさ”で世界を切り分けることの乱暴さを、中川はその歩みの中で、常々どこかで感じていたはずだ。震災を経ていよいよ二極に分化し、ゼロか1かで自己や他者の立ち位置を設定して安心したり、声高に何かを叫ぶ事によって他者を「動員」しようとする動きが顕在化してきた世の中に対する違和感をさまざまな場所で事あるごとに控えめながら表明していたことにも、それは表れている。

しかし、これまでの作品中において、中川はそれをあえて己のうちに閉じ込め、外なる光の眩しさ、美しさを切り取ってきた。 それはある意味、光というものへの身の処し方を決めかねていたからだとも言える。他者が発する確かな光に驚き、感動しながらそれを記録し、その感情を写真に変えて世の中へと放ちながら、どこかで「自分はどうするのか」を考え続けていた。それは中川の、自分の肌感覚をできるだけごまかさずに細かく細かく検証していく誠実さゆえの手さばきであったとも言える。

 

しかし、この『ダレオド』で、中川はようやく腹を括った。

「わたしは、ひかりを集めたい。戦い争い傷つけ合うこと。不安や恐怖や絶望。それらに抗うかわりに、わたしはひかりを粛々と集めたい。」

 

これは、決して「自分の見たいものだけを見る」ということではない。 不安を裏返すように己の善に固執し、それをYESと言いたいがために他者にNOを突きつけようとする心から自由になるということだ。

 

ゼロと1の間には何もないようで、本当は0.1も0.8も0.1478も存在する。誰かが何かを選んだ、その決断に至る途中には、あらゆる葛藤や努力、喜びや悲しみなど、語られない人間のすべてがある。描かれなかった絵、伝わらなかった言葉、あきらめた夢、そうした見えざるものたちが、人を、そして世界を形作っている。 路傍に転がるそういった「見えない光」とでもいうべきものをひとつひとつ、丹念にすくい上げていくこと。大きな声や強い光にかき消されがちなもののことを、忘れないこと。それが自分のやり方であると、決めたのだろう。

 

それは、ある意味とても勇気のいることだ。人は自分の尺度で他者を切り分けて安心する生き物である以上、その物差しを放棄することは己の立ち位置を見失いかねない行為であるとも言える。だが、そうやって世界や人を測ることが対象に対する本質的な理解を妨げるとしたら、それは表現者としての自分にとっての枷でしかない。それを本能的に悟ったからこそ、中川はこの『ダレオド』で、静かに、そしてときに激しく、流転するものたちを主題に選んだのではないだろうか。

変わらずにいようとどれほど抗ったとしても、己ですらあずかり知らぬところで、人は刻々と変わっていく。すなわち、人生は自分自身ですら完全にコントロール、または所有することなどできはしない。だからこそ、人は本来、その存在そのものにおいて自由なのだ。誰ひとり、あなたに何かを強制することなどできはしない。

それが例えあなた自身だったとしても。 写真家としての中川正子もまた、これからいかようにも変わり続けていくのだろう。善も悪も光も闇もないまぜになったこの世界に身ひとつで飛び込みながら、自分でも想像のつかない明日の自分に向かって手を差し伸べ、常にあたらしく生まれ続けること——それを受け入れたものにのみ、世界の複雑系が微笑むことを信じて。

 

その希望と、わずかな畏れを湛えて『ダレオド』はある。

 

安東嵩史

2016-10-23 | Posted in newsNo Comments » 

 

NEWS|中川正子写真集「ダレオド」先行予約開始!

※限定数が完売したため、オリジナルプリント付写真集の販売は終了いたしました。

ご予約いただいた皆さま、本当にありがとうございます。
良い写真集となるように、現在鋭意制作中です。ぜひご期待ください。

引き続きご予約はオンラインストアより受け付けております。

 

来春に刊行予定の、中川正子写真集「ダレオド」。写真集の先行予約を開始しました!

先行予約いただいた方への特典として、先着300部限定で、オリジナルプリントをプレゼントいたします。

オリジナルプリントの柄は下記の2種類(AB)、各150部ご用意しています。(サイン、エディションナンバー入り)また、できあがった写真集には、中川正子さんからのメッセージも同封します。さらに、BOOK MARUTE店頭でご予約された方のみ、その場でオリジナルポスターもプレゼントします!ぜひお見逃しのないよう、この機会にご予約ください。

A (完売しました)

B(完売しました) 

 

・特典のお渡しについて
店頭予約の場合にはその場で、WEB予約の方には郵送で(ご予約後2週間以内に)お届けいたします。

・ご予約方法
BOOK MARÜTE店頭、もしくは本ウェブサイトから、お好きな柄のプリントを選んでご予約ください。(特典のオリジナルプリントは各150部のみプリントしていますので、タイミングによりご希望の柄をお渡しできない場合もございます。あらかじめご了承ください。)

・写真集のお渡しについて
完成後、郵送(送料360円)もしくは店頭受け取りにてお届けいたします。(WEB予約の方は郵送のみとなります。)

▶︎WEB予約はこちら! おかげさまで完売しました

 


編集者・安東嵩史さんが、『ダレオド』について中川正子さんに取材し、文章を書いてくださっています。
合わせてぜひ、ご覧ください。
見えない光、それを見ること——中川正子『ダレオド』によせて


 

発売:2017年 春(予定)
価格:3,900円(税別)

お問い合わせ
BOOK MARÜTE
ADD 香川県高松市北浜町3-2 北浜アリー2F(カフェumie隣)
TEL  090-7078-4512
WEB http://book-marute.com

 


2016年11月1日〜13日、MARUTE  GALLERYにて、写真集に先駆けた同名の写真展を開催しました。

 

STATEMENT|

「誰も見ていないみたいに、踊って」

どこかの牧師が書いたそんな言葉を以前、アメリカのスーパーで見かけた。その一文は心のどこかにすっと、静かに沈み、美しい景色となってずっと、わたしの中に存在しました。夢中で踊る誰かの姿とともに、いつしか、「踊る」という動詞は、わたしにとって、生き生きと生きることの、象徴になりました。

わたしは、ひかりを集めたい。戦い争い傷つけ合うこと。不安や恐怖や絶望。それらに抗うかわりに、わたしはひかりを粛々と集めたい。わたしの、あなたの、彼らの、生きる日々にこぼれる、ひかり。はかなく、強く、おだやかに、鋭く。それらを余すところなく拾い、積み上げることは、わたしにとって、強い祈りのようなものです。歌が作れないから、歌の代わりに。踊るみたいに。

拾い集めたひかりの粒はやがて、わたしの手を遠く離れ、それぞれが呼応し合って、明るさを増してゆく。ひかりに包まれたひとびとは、抱き合って許し合い、恐れは消えてゆく。そこは、助け合い、分け合い、愛し合うひとびとの世界。そこからもう、焦点を離さない。そう、決めました。

ね、誰もみてないみたいに、踊って。

中川 正子

 


 

EXHIBITION|
中川正子写真展「ダレオド」

[会期]2016.11.1(tue)-11.13(sun)※水曜定休
[時間]平日 13:00-20:00 / 土日祝 11:00-20:00
[入場料]無料

 

EVENT|
中川正子写真集「ダレオド」刊行記念トーク&パーティー

[日時]11.5(sat)19:00〜(受付18:30〜)
[参加費]1,000円(1ドリンク付)
パーティーのみのご参加の場合は、1ドリンクオーダー制 500円
▶︎ご参加のお申込はこちら 終了しました

 

PROFILE|
中川正子 (なかがわ・まさこ)

1973年横浜生まれ。1995年、津田塾大学英文学科在学中にCalifornia state university, Haywardに留学。写真と出会う。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、アーティスと写真、書籍など多ジャンルで活動中。
2011年3月に岡山に拠点を移す。現在、東京と岡山を往復する日々。自身の出産と震災後の世界を描いた写真集「新世界」(PLANCTON刊)は全国6カ所で巡回をし好評を得た。最新の写真集として、東日本大震災の後に岡山へ移住した人々の暮らしをモチーフにした物語『IMMIGRANTS』を発表。他に「旅の響き」(宮沢和史氏と共著) 河出書房新社刊「ふたりぶんのしあわせ」(カサイミク氏と共著) ピエブックス刊「通学路」(PLANCTON刊)、2017年春、最新写真集「ダレオド」(Pilgrim)刊行予定。

2016-10-23 | Posted in newsNo Comments » 

 

出張9/16-19|THE TOKYO ART BOOK FAIRに出展します

TABF出展します!
9/16(金)〜19(月)THE TOKYO ART BOOK FAIRに出展します。
各作家さんや写真家さんのオフィシャルブースを展開します!

そして、なんと!作家さんや写真家さんも店番をしにきてくれます!
ご来場の際は、ぜひBOOK MARUTEブースにお立ち寄りください。

 

*現在決まっている店番スケジュール

|9/16(金)|
河内タカ(時々います)
かくたみほ(15:00〜21:00)

|9/17(土)|
河内タカ(時々います)
植本一子(12:00〜夕方)

|9/18(日)|
河内タカ(時々います)
鈴木陽介(15:00〜最終まで)
高橋宗正(14:00〜最終まで)
濱田英明(時々抜けます)

|9/19(月)|
河内タカ(時々います)
高橋宗正(15:00〜最終まで)
かくたみほ(11:00〜19:00)
濱田英明(時々抜けます)


★若木信吾

(浜松市美術館で開催中の若木慎吾写真展のPR兼ねて日程調整中、直前に発表します!)

 

※なお、高松の店舗も通常営業しています。
9/16(金)からは、「Studio Journal knock」の西山勲さんの写真展「Gosia」がスタートします!
高松へもぜひご来場ください。

2016-09-11 | Posted in newsComments Closed 

 

NEWS|ゲストハウスがOPENします!


小店でプロデュースしているゲストハウス
book&travel ゲストハウスまどか
が、いよいよ3月にオープンの運びとなりました。

小店から歩いて10分ほどで、高松駅にも港にもアクセスが良いです。 ぜひ、四国の旅の拠点にご活用ください。

 

book&travel ゲストハウスまどか

http://madoka-kagawa.com

〠760-0037 香川県高松市東浜町1-3-17
TEL 080-3922-3896(電話受付 9:00〜22:00)
MAIL info.madoka@gmail.com

2016-02-15 | Posted in newsComments Closed